ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、漢方薬には生薬がいくつも含まれてひとつの漢方薬になっており、その漢方薬に対して適応があります。これは、生薬単独の作用を期待しているのではなく、組み合わせによる効果を期待しているためです。この部分が、単一成分で効果を期待する西洋薬と異なります。今回は、漢方薬の生薬の組み合わせについてご紹介したいと思います。
先ほどお伝えしましたが、漢方薬はいくつのの生薬が組み合わさり、絶妙な配合量の割合で成り立っています。そのため、どれかが一つ欠けたり、分量が変わったりすると期待する効果が発揮できなくなってしまう可能性があるのです。
例えば、「桂枝湯(けいしとう)」という漢方薬があります。これは、体力が比較的弱めな方の風邪の初期症状で使うことのある漢方薬で、「桂皮(けいひ)」「芍薬(しゃくやく)」「大棗(たいそう)」「甘草(かんぞう)」「生姜(しょうきょう)」という5種類の生薬で成り立っています。この処方構成の中で生薬の種類はそのままで「芍薬」の量を少し多くするだけで、「桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)」という漢方薬になります。そしてこの漢方薬の適応は、おなかの張りを伴うような腹痛です。ひとつの生薬の量が多くなっただけで適応症が変わるなんて面白いですね。さらにこの「桂枝加芍薬湯」に「膠飴(こうい)」という生薬を加えると、「小建中湯(しょうけんちゅうとう)」という漢方薬に変わり、適応症も疲労倦怠、胃腸炎や神経質、小児の虚弱体質などに変わるのです。
また、構成する生薬の中の1種類が変わることで全く異なる漢方薬になることがあります。例えば、「麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)」という漢方薬があります。これは、関節痛や神経痛、筋肉痛に適応のある生薬ですが、この漢方薬に入っている「薏苡仁(よくいにん)」という生薬を「石膏(せっこう)」という生薬に変えることで「麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)」という漢方薬となり、適応は喘息(ぜんそく)に変わります。
漢方薬は、そのひとつひとつの生薬が一緒に入っている生薬とうまく重なり合うことで、力をひとつにして効果を発揮させています。まさに、チームプレイですね。細かく見るとある生薬の作用を別の生薬がより強めてくれたりする「相乗効果(そうじょうこうか)」やまたある生薬の欠点を別の生薬が補ったりする「相殺効果(そうさいこうか)」などが働いているのです。私たち人間のチームプレイで置き換えて言うと、メンバーのプレイをアシストしたり、メンバーがミスしてしまったところを別のメンバーが補ったりしているということです。また、メンバーの特性を生かしてチームがまとまるよう、うまく調節してくれるような生薬もあります。
この絶妙な処方構成を「処方の妙(しょほうのみょう)」というのですが、これは古くからの先代の経験があってこそなんです。
経験医学をもとに自然の力を借りながら、毎日いきいきとした生活が送れるよう健康な状態を保っていきたいですね。
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